血液ガスデータ pHの異常

血液ガスデータからpHの異常を評価する

pHは、体内の恒常性を判断するために不可欠な指標です。
そして、pHには、PaCo2とHCO3-の働きが密接に関わっています。
pH、そして、PaCO2、HCO3-の関係を正しく理解し、
pHの異常を評価することができるようにすることが必要です。

pHの異常を評価する

血液ガスのデータを見る場合、まずPaO2とPaCO2に注目する人が多いです。
身体がエネルギーを使うために、酸素化や換気はとても重要ですが、
その一方で身体の細胞の働きを保つために重要なものがpHのバランス、つまり酸塩基平衡です。

 

 

 

pHのバランスが崩れる、つまりpH値に異常が生じるということは、
体内の恒常性が保たれていないということになります。
そのため、pH値の評価を的確に行う事ができることが重要です。

 

 

 

pHとは、水溶液中の水素イオン(H+)の指数(濃度)を示します。
体内の血液の状態が酸性(H+が過剰)であるか、
アルカリ性(H+が不足)であるかを表しています。
その値は、通常1〜14までとされていて、中性は7.0です。
それよりも数値が低くなるほど酸性が強くなり、
数値が高くなるほどアルカリ性が強くなります。
酸性のものとして身近なものは、レモンやお酢などがあります。
アルカリ性のものとして身近なものは、浴槽を洗う時に使うアルカリ性洗剤などがあります。

 

 

 

人の場合は、6.8〜7.8という極狭い範囲でpHが調節されます。
人の血液は、科学的な中性よりもわずかにアルカリ性となる7.40が中性となります。
そして、正常値は、7.35〜7.45とされています。
正常値よりも酸性に傾くことをアシドーシスといい、
正常値よりもアルカリ性に傾くことをアルカローシスといいます。
7.0以下になると昏睡症状が出て、7.7以上になると痙攣などの症状が出ます。

 

 

 

pHのバランスに密接に関わっているのは、
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と重炭酸イオンHCO3-です。

 

 

 

動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と重炭酸イオンHCO3-は、pHを規定するだけでなく、
異常が生じた場合は、「代謝」という働きによってお互いに補いあいながらpH のバランスを保とうとしています。
ですから、pHの異常時には、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と重炭酸イオンHCO3-を評価することによって、
どのような状態になっているかを知ることができます。

 

 

 

PaCO2は、動脈中のCO2の量を示しますが、
それだけでなく、この値によって肺胞の換気量も把握することができる重要なデータです。
PaCO2が上昇、或いは低下した場合は、
まず換気量が変動し、pHが保たれるように調節されます。
もし、この値が高ければ低換気の状態であることがわかり、
値が低ければ過換気の状態であることがわかります。

 

 

 

HCO3-は、体内のH+を受け取り、中和してpHを一定に保つ働きをします。
体内の酸の量に影響を受けますが、調節は腎機能によって行われるため、
腎臓の代謝機能を知ることができるデータとなります。

 

 

 

pHの評価に関わるデータの正常値

 

 

 

pH : 7.35〜7.45(7.4±0.05)

 

 

 

PaCO2 : 35〜45Torr

 

 

 

HCO3- : 22〜26mEq/l

アシドーシスとアルカローシス下でのPaCO2とHCO3-

PaCO2とHCO3-の値の増減により、異常の種類を見極めることができます。

 

 

 

アシドーシスとアルカローシスは、それぞれ呼吸性と代謝性に分けられます。
そして、血液ガスデータでみた場合、PaCO2とHCO3-の値の増減でも見極めることが可能です。

 

 

 

PaCO2が増加、或いは減少している場合は呼吸性の原因で異常が起こっている状態で、
HCO3-が増加、或いは減少している場合は代謝性の原因で異常が起こっている状態です。
ただし、呼吸性アシドーシスはPaCO2が増加し、代謝性アシドーシスではHCO3-が減少、
呼吸性アルカローシスはPaCO2が減少し、代謝性アルカローシスではHCO3-が増加するというように、
呼吸性と代謝性では、アシドーシスとアルカローシスにおけるそれぞれの増域が逆です。

 

 

 

PaCO2とHCO3-の値は、明らかにアシドーシスやアルカローシスであるのに、
pH値が正常範囲にあるときは、代謝作用が働いています。
その場合、代償の働きをする側も、PaCO2(呼吸性)、或いはHCO3-(代謝性)と同じ増減を示します。

代償の働き

PaCO2とHCO3−の時間差を知ることが大切です。

 

 

 

アシドーシスやアルカローシスになったときは、
PaCO2もHCO3-もpHのバランスが保たれる方向に変化し、
PaCO2とHCO3-の間に起こる代償の働きには、それぞれの性質による時間差が生じます。

 

 

 

呼吸による代償の場合は、呼吸の回数の変化によってすぐ対応できます。
ですが、腎での代謝による代償には時間がかかるので、
急性の呼吸性アシドーシスや呼吸性アルカローシスにはすぐに対応することは不可能です。

 

 

 

呼吸性の異常が起きるのと同時に、代償性による代償も機能しますが、
腎機能による調節が十分に機能するためには日数を必要とします。
このことからpHの値に異常があり、
呼吸性のアシドーシスやアルカローシスと判断した際に
HCO3-が代償しているかどうかで急性か慢性化が判断できます。

 

 

 

PaCO2 と HCO3- が代償するまでの時間

 

 

 

PaCO2 は、短時間(2〜3分ほど)で大きく上下に変動します。
ですが、HCO3- は、短時間で大きく変動することはなく、
その変化は1日に1〜2mEq/lほどです。
HCO3-は、揺るやかに上下するということを念頭に置いておくことが大切です。

四つのpHの異常

アシドーシス

 

 

 

アシドーシスとは、何らかの体の異常によって、
体内に酸が過剰に存在している状態です。
そして、単に血液が酸性であるという状態とは異なります。

 

 

 

代謝性アシドーシス

 

 

 

代償作用なし HCO3- ↓ PaCO2 →

 

 

 

代償作用あり HCO3- ↓ PaCO2 →

 

 

 

代謝性アシドーシスは、代謝のバランスが乱れpHが酸性に傾いている状態です。

 

 

 

ひどい下痢が続くなどした場合、消化管からの分泌物が再吸収されず体外に排出されます。
すると、HCO3-が失われpHがさがります。

 

 

 

また、糖尿病などによる糖代謝異常によってケトン体が蓄積されると、
血液が酸性に傾くことがあります(糖尿病性ケトアシドーシス)。

 

 

 

乳酸の蓄積、腎不全、尿毒症などによる腎からのHCO3-の喪失も、原因になります。

 

 

 

呼吸性アシドーシス

 

 

 

代償作用なし HCO3- → PaCO2 ↑

 

 

 

代償作用あり HCO3- ↑ PaCO2 ↑

 

 

 

呼吸性アシドーシスは、肺胞換気量が低下しCO2を体外に出せない状態です。

 

 

 

呼吸数の低下や一回換気量の低下、死腔の増加などが原因として考えられます。

 

 

 

さらに、脳血管障害に限らず、中枢神経の機能低下による呼吸筋の障害、
麻酔や薬物の影響や意識レベル低下による気道閉塞、
COPDなどの慢性呼吸不全による肺ガス交換障害なども原因として挙げられます。

 

 

 

アルカローシス

 

 

 

アルカローシスは、体内にアルカリが蓄積された、
或いは酸の喪失によって起きる病的な状態です。

 

 

 

代謝性アルカローシス

 

 

 

代償作用なし HCO3- ↑ PaCO2 →

 

 

 

代償作用あり HCO3- ↑ PaCO2 ↑

 

 

 

代謝性アルカローシスは、酸を中和する役割をもつHCO3-が、体内に過剰に蓄積した状態です。

 

 

 

激しい嘔吐、胃液の吸引、ループ利尿剤など循環血漿量の減少によるHCO3-値の相対的な上昇、
バーター症候群やクッシング症候群などによるNa+、HCO3-の再吸収、
K+、H+の排出の促進などが原因としてあげられます。

 

 

 

呼吸性アルカローシス

 

 

 

HCO3- → PaCO2 ↓ 代償作用なし

 

 

 

HCO3- ↓ PaCO2 ↓ 代償作用あり

 

 

 

呼吸性アルカローシスは、いわゆる過換気の状態で、CO2が過剰に排出されている状態です。

 

 

 

必要以上に息を吸ったりはいたりすることによって起きます。
肺炎や気管支炎による軽い呼吸困難、疼痛や不安、
その他の精神的理由による過換気状態が主な原因になります。

慢性呼吸不全の患者さんの例

外来受診の際に診察すると、特に体調に変化は見られない慢性呼吸不全の患者さんがいます。
その患者さんは、普通に徒歩で来院していますが、SpO2を測ると90%程度しかないことがあり、
200メートルくらい歩くと息が苦しくなって一度休んでから歩いたり、
階段も途中で休憩しながら、数段上って休み、また上るというような状態です。
安定した状態で血液ガス分析を行うとPaCO2の値が高いので、換気が悪いことがわかります。
ですから、うまく換気ができないことによる、呼吸性のアシドーシスになっているということです。

 

 

 

この患者さんのpH値が正常範囲内にあるというのであれば、
腎臓からHCO3-を多めに放出する代償作用でバランスをとっているということになります。

 

 

 

また、この患者さんがインフルエンザなどにかかり肺炎を併発した場合は、
もともと慢性呼吸不全であるにもかかわらず、
その状態のところに肺炎によってシャントや死腔が発症し、
換気不良の状態が悪化してしまうことになります。

 

 

 

今までは、慢性の呼吸性アシドーシスでありながら、
代謝の働きによってpHバランスを保っていたのに、
その働きではカバーできないほどにアシドーシスが悪化し、
結果、pHが酸性に傾いてしまうことになります。

 

 

 

このような患者さんだけでなく、pHのバランスが崩れ、
値が異常になってしまっているときには、何らかの処置が必要です。
ですが、pHバランスが取れているのであれば、
PaCO2やHCO3-値が多少正常値から外れていても、
恒常性は保たれているので、緊急な対応を必要としない可能性が高いと考えることができます。

 

 

 

ですが、pH値が高すぎる場合、或いはpH低すぎる場合は、
不整脈や体内の代謝効率の悪化が起こるなど、患者さんの状態は良くないと考えられ、
早急な対処が必要な場合であることが多いです。
特にケトアシドーシスでは緊急な処置が必要になります。

 

 

 

主に糖尿病が原因となって起こるケトアシドーシスは、
インスリンの注射によってでしか回復することができず、
放置すれば意識障害を起こすこともあるので早急に対応することが必要です。

pH異常の評価の仕方

(1) 患者さんの全体像を把握する

 

 

 

pHは、PaCO2とHCO3-に影響を受けます。
いずれかの値が突出していれば、4つの異常のどれが原因なのかがわかりやすいのですが、
代償作用が働くと呼吸機能や腎機能なども密接にかかわってきます。
いずれかの値が異常値を示していたら、
まずは患者さんを観察し、患者さんの全体像を把握し直すことが必要です。

 

 

 

患者さんの既往歴、過去の血液検査のデータ、さらに腎機能の異常や慢性呼吸不全がないかを確認し、
利尿薬の長期的使用がないかどうかについても確認します。

 

 

 

(2) 呼吸状態を確認する

 

 

 

呼吸状態の確認し、換気の評価をします。

 

 

 

きちんと肺で空気の出し入れが行われているか、
呼吸が遅くなっていないか、或いは速くなっていないかなどの点から観察していきます。

 

 

 

pHに関しては、O2が直接関係がないので、
血液ガスデータの中で、SaO2やPaO2を別に評価していきます。

 

 

 

(3) 全身状態をみる

 

 

 

患者さんの全身状態をみます。
意識レベルが悪いのであれば、呼吸がうまくできていない状態になっているかもしれませんし、
下痢が続いていたり、何度か嘔吐したなど、HCO3-減少の原因となる症状があるのかもしません。
いつもと違った症状はないかどうか、患者さんの全身状態をみながら確認します。

 

 

 

また、バイタルサインや各種検査データも確認することを並行して行います。

 

 

 

(4) 血液ガスデータをみる

 

 

 

患者さんの状態を確認した上で、血液ガスデータのpH、PaCO2、HCO3-の数値と動きをみていきます。

 

 

 

アシドーシスの場合

 

 

 

pHが7.35よりも低い場合、体は血液が酸性の状態である「アシデミア」にあります。
そして、それが呼吸性なのか、或いは代謝性なのかをみます。

 

 

 

患者さんが低換気の場合は、呼吸性アシドーシスと考えられますし、
糖尿病の患者さんや、激しい下痢をしている患者さんの場合には、
代謝性のアシドーシスの可能性があります。
呼吸不全の患者さんの場合、代謝性代償も考慮します。

 

 

 

データとともにアシドーシスの状態でみられる症状、
アシドーシスの原因となる症状があるかどうかをみていくことが必要です。

 

 

 

アシドーシスの症状には、「悪心・嘔吐」、「意識レベルの低下」、「頭痛」、
「交感神経の緊張」、「不安・不整脈による心収縮力の低下」などがあります。

 

 

 

例えば、pH7.22で、PaCO2がTorr、HCO3-が24mEq/lの場合、
HCO3-は正常値で、PaCO2だけが増加しています。
ですから、「呼吸性アシドーシス]であると考えられます。

 

 

 

また、pHが7.38でPaCO2が60Torr、HCO3-が35mEq/lの場合は、
どちらの値も増加しているので、患者さんに呼吸不全の症状がみられると、
HCO3-の増加はPaCO2の増加を代償した結果と考えます。
ですから、同じ呼吸性アシドーシスであっても、
この場合は、代償によってpHが正常範囲に戻るっていると評価できます。

 

 

 

腎不全になると、代謝性アシドーシスが起きます。
腎機能が低下し、腎不全の状態になると、代謝で生じた酸を排出することができなくなり、
さらにCO2を中和するHCO3-を作ることができなくなります。
その結果、血中の酸が増え、pHは酸性に傾くので、アシドーシスになります。

 

 

 

アシドーシスの場合は、pHがどの程度まで低下しているかによって
その重症度が決まってきます。
pHが低下すると不整脈が出ます。
さらに心収縮力が低下したり、交感神経が緊張するなどの症状もみられます。
pH7.3を切ったら「何かおかしい」と気づき考えることが必要です。
そして、pH7.2以下になったら「危険」とみなします。
さらにpH7.1まで低下した場合は、かなり危険な状態であり、緊急処置が必要です。

 

 

 

患者さんが会話できる状態であっても、危険な状態であることに変わりはありません。
直ちにドクターコールをし、挿管の可能性も考えるなど処置の準備を整えるようにします。

 

 

 

アルカローシスの場合

 

 

 

アルカローシスは、pHが7.45以上の状態です。

 

 

 

患者さんの呼吸状態が過換気で、HCO3-に異常がなければ呼吸性のアルカローシスと考えます。
また、嘔吐などによってH+が過剰に喪失されている場合は、
代謝性のアルカローシスと考えます。

 

 

 

代償作用は、代謝性のアルカローシスの場合はHCO3-が増加しているのに伴い、
PaCO2も増加します。
そして、呼吸性アルカローシスの場合は、過換気によってPaCO2が低下するため、
HCO3-が減少して代償します。

 

 

 

pHが7.6で、PaCO2が40TOrr、HCO3-が32mEq/lの場合、PaCO2は正常値です。
ですから、この場合は「代謝性のアルカローシス」です。

 

 

 

pHが7.6で、PaCO2が25Torr、HCO3-が24mEq/lの場合、HCO3-は正常値ですが、
PaCO2が減少していますから、この場合は「呼吸性のアルカローシス」です。

 

 

 

pHが7.5で、PaCO2が48Torr、HCO3-が34mEq/lの場合は、HCO3-が大きく増加しています。
ですから、「代謝性のアルカローシス」です。
この状態のところに、呼吸性の代償が作用し、PaCO2が高くなっている状態であると考えられます。

 

 

 

アルカローシスでは、pHが8.0というように極端に高くならない限り、
アシドーシスと比べると急激な症状の悪化は見られません。
血液がアルカリ性(アルカレミア)に傾いているというアセスメントは必要ですが、
緊急性はありませんが、異常な状態であることには違いないため、
医師に報告することが必要で、アルカローシスであることを念頭に、症状の変化を観察することが大切です。

 

 

 

アルカローシスの症状は、急性アルカローシスと慢性アルカローシスの場合で異なります。

 

 

 

急性アルカローシス

 

 

 

急性アルカローシスの場合は、抹消血管収縮が原因となり、
意識障害や不整脈、心機能低下などが起こります。

 

 

 

慢性アルカローシス

 

 

 

慢性アルカローシスの場合は、電解質異常がその原因となるので、
電解質異常に由来する症状が起こります。

 

 

 

アルカローシスと低カリウム血症について

 

 

 

アルカローシスになると、H+とカリウムイオンの関係に起因し、低カリウム血症を伴います。

 

 

 

アルカローシスになると、H+が細胞内から細胞外へ移動し、
それによって同じ陽イオンであるK+が逆に細胞外から細胞内へ移動するので
低カリウム血症を引き起こします。

 

 

 

pHが1.0上昇すると、血中のカリウムの濃度は0.4mEq/l低下するといわれています。
低カリウム血症になると、筋力低下による呼吸筋の機能低下や心不全、食欲不振、
嘔吐などを引き起こし、重症になると意識障害が起こります。

 

 

 

アシドーシスになると、アルカローシスと逆の動きをするので、
高カリウム血症を引き起こすことがあります。
H+細胞外から細胞内へ移動することで、
K+が細胞内から細胞外へ移動し、結果、血漿中のカリウムの濃度が上昇します。

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